海うそ 梨木香歩
気分転換のつもりで図書館で小説を借りてきた。
中学生ごろまでは自分も本の虫のような子どもだったのだけど、忙しくなるのにつれ、まったく本を読まなくなってしまった。
最近になって気付いたのだが、自分は「小説」が好きなのではなくて、「児童文学」というジャンルが好きだったらしい。
「児童文学」好きな元・本の虫としては、同じような空気感の感じられる本を読みたかった。
そこで目に留まったのが、梨木香歩さんの「海うそ」だった。
梨木さんといえば児童文学の「西の魔女が死んだ」が有名だ。
自分も中学生のころに読んだ記憶がある、が正直ちゃんと中身を覚えていない。
ただ、「魔女」というファンタジーな単語が使われている割に、内容そのものは妙に現実的、写実的な話だったように記憶している。
「海うそ」も、本質的には「西の魔女」と同じようなテイストの物語といえる。
昭和のはじめの南九州の島を舞台に、人文地理学者の主人公が時代の変遷の中でかき消されてしまった修験道の聖地の痕跡を巡っていく。
ある時代では当たり前に存在していたものが、ある日突然、当たり前ではなくなる。
主人公は過去の時代に、自らの人生の「喪失」を重ねていく。
主人公は他の人間にあまり自らのことを語らないので、登場人物同士の心の通い合い、という描写はあまりない。
それでも、島の歴史と大自然を前に圧倒されるという共通の「時間」そのものに、非常に意味があるように思う。
寂しい物語ではあるが、「喪失」の空しさに向き合った果てには、「何もない」という美しさがある。